アラブの春やイラク戦争が中東に与えた影響とは? 黒木英充、高橋和夫、萱野稔人らが議論(2)

 

  THE PAGEが放送した生放送番組、THE PAGE 生トーク「中東とどう向き合うか~イスラム国から日本外交まで~」(http://thepage.jp/detail/20150302-00000006-wordleaf?)。出演は、黒木英充・東京外国語大学教授、鈴木恵美・早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員、高橋和夫・放送大学教授。司会・進行は、萱野稔人・津田塾大学教授、春香クリスティーンさん。
 
  以下、議論の第2部「中東の今を理解するためのポイントとは? アラブの春やイラク戦争まで」を議論した部分の書き起こしをお届けします(第1部はこちら(http://thepage.jp/detail/20150315-00000001-wordleafv?))。
 
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パラダイムの転換期にある中東

 [画像]黒木英充・東京外国語大学教授

 以下、書き起こし
 
 萱野稔人:はい。中東の今を理解するポイントは何か。今までのお話も踏まえまして、今の中東を理解するためには、何に注目したらいいのか、何がポイントになるのかっていうことをちょっとお話しいただければなと思うんですけども、まずじゃあ鈴木さん。
 
 鈴木恵美:ポイントもいくつもあってなかなか難しいんですけれども、1つは今現在の中東がパラダイムの転換期にあるということだと思うんですね。
 
 萱野:パラダイムの転換期。
 
 鈴木:はい。これまでの中東、そうですね。50年に一度、100年に一度、起こるか起こらないかぐらいの大きなこう、いろんな大転換期にあると思うんですね。
 
 萱野:そうですか。
 
 鈴木:ええ。例を挙げると本当にいくつもあるんですけれども、例えば、アメリカの対中東政策の基軸国、要の国だと言われてきたエジプトとサウジアラビアにしても、アメリカとの関係1つ取ってもこの数年でだいぶ変わったわけですね。
 
 萱野:そうですか。
 
 鈴木:そうですね。エジプトは非常に親米、今でも基本的には親米ですけれども、アメリカべったりの国だったわけですけれども、それがロシアに接近して。で、ロシアが最近ウクライナ情勢でちょっと歩が悪いということになると、去年12月ぐらいから急速に中国に接近していて、これまでの中東って言ったらサウジアラビアとエジプトががっちりアラブ諸国を束ねるっていうような形がちょっと崩れてきてると。アメリカに石油を安定的に供給するためのタッグっていうのがちょっと崩れてきていると。
 
 萱野:エジプトが例えば、ロシアや中国に接近する理由ってなんですか。
 
 鈴木:もうこれは、エジプトがこれまでアメリカからいろいろ援助してもらってたわけですけれども、2013年に軍事クーデターが起きて、で、軍事クーデターで成立した政権を、アメリカとしては大々的に支援することができないわけですから。
 
 萱野:一応そうですよね。軍事クーデターで成立したっていうことで。
 
 鈴木:そうですね。だからといってアメリカ政府はエジプトを切ったりしないわけですけども、関係はやはり、相対的には悪くなって、援助金もちょっと減ってるわけですよね。
 
 萱野:そうですか。サウジアラビアもアメリカべったりじゃなくなってるんですか、今。
 
 鈴木:そうですね。ちょっとシーア派とかそういうちょっと話が難しくなっちゃいますけども、1つにはよく言われてるのはシェール革命ですよね。アメリカでたくさんエネルギーが自分たちで調達できるようになって、もうサウジアラビア要らないよというような方向に向かってきてると。
 
 萱野:アメリカ自身もそういう方向に向かってる。
 
 鈴木:そうですね。こういった感じでだいぶこれまでの中東関係、アラブ諸国の域内のパワーバランス、あるいはアメリカとの関係、ロシアとの関係っていうのも、がらっと今変わりつつあるという、非常に転換期にあるということですね。なので、なかなか理解するポイントとしては難しいんですけれども、今はいろんなものががらがらと動いているときだっていうことを1つにはやっぱり知っておくべきだと思うんですね。
 
 萱野:そのパラダイムの転換、要するに大きな枠組みが変わるんだということだと思いますけど。
 
 鈴木:そうですね。
 
 萱野:今外交の話だったじゃないですか。内政って、国内的な状況でのパラダイムの転換っていうのはあるんですか。
 
 鈴木:そうですね。それは地域なり、1カ国、1カ国でだいぶ状況が違うので、それぞれ見ていかないといけないとは思うんですけれども。
 
 萱野:一言で言うと、でも、あの地域で起こってる国内的なパラダイムの転換があるとすればなんですか。
 
 鈴木:そうですね。初めのテーマともちょっと重なりますけれども、これまでの秩序が崩壊したわけですから、その秩序を再生しよう、復活させようという勢力が強いのがエジプトですけども、もうずっと混迷しているのがシリアですよね。アサド政権はこれまでの政権を維持しようとしてますから、そういう状態であるとか、もうリビアも完全に内戦状態ですから、もう崩壊しちゃってるわけで、そういった感じでいろんなこう、まあ、枠組みが崩れているっていうことですね。

世界と中東の相互作用が現在を形作る

 萱野:なるほど。今、パラダイムの転換、大転換だというお話ありましたけども、黒木さんは何が中東を理解するためのポイントだというふうにお考えですか。
 
 黒木英充:今、鈴木さんがお話になったように、その中東だけで話は収まんないですよね。アメリカが出てくる、ロシアが出てくる、中国が出てくるっていう感じでね。これはもう、なんて言うか、それらがみんな総合的にお互いの関係の中で作ってるものだというふうにまず考えるべきだと思うんですね。
 
 萱野:お互いの関係の中で作ってる。
 
 黒木:つまり、中東、中東って言ってもいろいろですけれども、そこと、それぞれの、もう世界中がそことの関係、していると。もちろん、濃い薄いはあるにしてもですね。もちろんアメリカっていうのはそこでは一番大きな関わり方だろうと思いますけども。ですので、その相互的な問題として、だから、アメリカも変わりつつあるわけですよね、そういう意味では。ロシアも変わりつつある。だから、まずそういうふうに考えるべきだっていうことが1つですね。それとあとやっぱり、いくつか大転換期にあるっていうのは私もまったく同じ意見なんですが、でも、変わらないことも、変わらないっていうか。
 
 萱野:変わらない部分もある。
 
 黒木:なんて言いましょう。長期的な、もっと長期的な要素っていうのもあるわけで、それは例えば、例えば今イスラムのいろんな過激思想とか、ジハード主義とか、いろんな考え方ありますけども、いわばそれ突き詰めていくと、例えばイスラムが始まってまだ間もないころの7世紀に、自分と意見の違う人たちは、もうこれはイスラム教徒としては認めないって言って、ほかの多くの人たちから離れていく人たちっていう、そういう宗派みたいなのも表れてくるんですね。で、もう正しい信仰者ではないと、彼らは。だから、そのためには戦って殺してもいいんだっていうような考え方ですね。ですから、そういうものがいわば今、それ、その後もいろんな形でその考え方は、例えば18世紀のサウジアラビアの今のサウジアラビアの元になったワッハーブ派っていうのが出てきたときなんかにも、そういう考え方がよみがえってきてるわけですね。ですから、今起こってる、これは時代錯誤的なアナクロの話ではなくて、非常に古い層がぽっと顔を出してくるということがあるわけですね。それが1つですね。
 
  それとあとは、今度はそのヨーロッパとの関係、欧米との関係で言いましても、例えばそれこそ今、イスラム国が十字軍ということを盛んに宣伝の材料として使ってますけれども、このイメージっていうのはやはりずっとあるわけですね。
 
 萱野:要するにイスラム教徒からすれば、キリスト教徒がわれわれを侵害してるんだと。もう侵略しようとしてるんだっていう。
 
 黒木:キリスト教徒っていうか、外のキリスト教徒ですね。自分たちにも、中東にもキリスト教徒はいっぱいいますからね。ですから、そうやって外から侵略してくるっていう、この感じですよね。
 
 萱野:それはやっぱり欧米だっていうことになるんですよね。
 
 黒木:最近の話ではなですね。で、それが、でも、よく考えてみると、今のシリアのアサド政権側の下で暮らしてる人たち。これもいろんな考えの人たちいますけれども、シリアの人口の中では大半を占めてるわけですけれども、そこにいる人たちからすると、いや、イスラム国こそまさに十字軍的に世界各地から集まって自分たちを攻撃してくるっていう、スンニ派の十字軍みたいな、そんな言葉さえ聞かれることもあるわけですが。ですから、まさに相互的な問題として。
 
 萱野:そこは一枚岩じゃないですよね。でも、やはり外から侵略されてて、自分たちがやられてるんだっていう意識はものすごくあるっていうことですね。
 
 黒木:ありますね。ただ、それもまた問題なんですけれども、中から外を引っ張り込むっていうこともあるわけです。隣のライバルをやっつけるために外の勢力を利用するっていうのは、この地域ではよくあることなんですよね。だから、常にサッカーをやってるように常に動いてるわけですよ。
 
 萱野:それはでも、本当にわれわれからすると分かりにくいというか、何が起こってるのかっていうのはよく分かりませんよね。
 
 黒木:サッカーをやるようなつもりになって。いくつかゴールがあって、なんかいろんなチームが入り乱れてて。
 
 萱野:チームも何チームもあって、途中でユニフォームを脱ぎ変えるような形で。
 
 黒木:入り乱れて、変えてると。そんな感じでやってる。
 
 萱野:そうすると、われわれからすると、あれ? って。この前まではこういう力関係だったのが、今度はまったく違う勢力図になってるとか。
 
 黒木:なってるわけですね。
 
 萱野:別のところで紛争始まっちゃったりとか、やっぱりどんどん起こるわけですね。
 
 黒木:そういうことですね。
 
 萱野:それだと本当にわれわれも分からないっていうことになるとと思いますけど。
 
 黒木:そうですね。だから、アメリカとロシアの力っていうのが、ここ20年ほどの間にぐーっと弱くなってきて、その分、そのさっきのサウジアラビアとか、今のトルコとか、あとは湾岸の、サウジアラビア以外の国々もいろんな形で動き出してるわけですよね。それぞれの自分の国の体制とか環境とかいろんな思惑があって、そういう多極的な、多極的な混乱ですね。
 
 萱野:アメリカの影響力が中東で落ちたっていうのはよく言われますけど、ロシアの影響力も下がってると考えたほうがいいんですか。
 
 黒木:ソ連のときから考えれば、やはり両極で押さえていたっていう、なんかその仕組みが崩れているっていうことは確かだろうと思います。これは高橋さんのほうがお詳しいと思いますけど。

アメリカと中東のかかわり

 萱野:いや、本当、すごいややこしい話がやっぱり出てきてしまうわけですけれども、ちょっと高橋さんから見ると、中東を理解するポイントはなんですか。一番のポイント。
 
 高橋和夫:私はもともとイランをやってたんで、イラン中心的な史観で見るんですけど、やっぱりイラン革命以降、中東の国際政治を規定してたのはイランとアメリカの綱引きだったんですよね。だから、エジプトもサウジもみんなアメリカに付いて、イランはほとんど独りぼっちだけど、シリアのアサド政権とか、ヒズボラとかが付いてる。それを、そういう構図があったのにアラブの春以降、アラブ陣営がばらばらっと崩れた。で、イランの陣営のほうもアサド政権ががたがたときた。で、しかも、今イランとアメリカが核問題で話し合いをして、仲良くなりつつあるというんで、これまでのイランとアメリカっていう分かりやすい構図がなんかぐちゃぐちゃとなってしまって、あれ? という感じですよね。
 
  ですから、今、イスラム国に対する攻勢、イスラム国はアメリカの敵でもあるし、イランの敵でもあるんですけど、アメリカとイランが同じ側に立ってイスラム国と戦ってるという。だから、これまでのセ・リーグとパ・リーグじゃなくて、セ・リーグとパ・リーグ、交流戦やっててという感じがちょっとして、これは見てる人は混乱しますよね。
 
 萱野:なるほど。スポーツの比喩が結構出てきますけども。そうか。イランとアメリカがずっと綱引きをしてたと。これ、どこまでさかのぼると考えたらいいですか。イラン・イラク戦争のころももうさかのぼれるっていうことですか。
 
 高橋:たぶんイラン革命ですよね。だから、それまではイランの政権はアメリカべったりでしたから。
 
 萱野:なるほど。79年。
 
 高橋:79年でぱっと。
 
 萱野:イラン革命によって。あそこで急に緊張が高くなって、そこからずっと綱引きが始まって、で、イラン・イラク戦争が起きる。で、ずっとアメリカはイランと戦うイラクを支援し続けるけども大きくなりすぎて、結局、湾岸戦争でたたいて。という形でちょうど冷戦も終わって、その後、イラク戦争があって。ずっと、でもそれは図式はやっぱり変わってなかったわけですよね。
 
 高橋:そうですね。
 
 萱野:イランとアメリカが綱引きをする。その中で力のバランスをなんとか保ちながら、中東を安定化させようという意図がお互い働いたと。でも、それが崩れてきてしまったということですよね。
 
 高橋:お互い話し合いましたからね。真ん中にいた国々は、なんなんだ、アメリカはとか思いますよね。サウジとかエジプトはね。
 
 萱野:そうですね。なるほど。それはなかなか明快な図式かな、という気はしますけども。
 
 高橋:うん。たいていの明快すぎる図式っていうのは間違って、詳細を排除してるんですけど、この図式もそうなんですけど、でも、詳細から入ると、本当に全体図が見えないから。うん。
 
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 ※書き起こしは、次回「第3部」に続きます。

 ■プロフィール
 
 黒木英充(くろき ひでみつ)
 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授。専門は中東地域研究、東アラブ近代史。1990年代に調査のためシリアに長期滞在、2006年以降はベイルートに設置した同研究所海外研究拠点長として頻繁にレバノンに渡航。主な著書に『シリア・レバノンを知るための64章』(編著、明石書店)など。
 
 鈴木恵美(すずき えみ)
 早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員。専門は中東地域研究、近現代エジプト政治史。著書に『エジプト革命』中公新書、編著に『現代エジプトを知るための60章』、他、共著多数。
 
 高橋和夫(たかはし かずお)
 評論家/国際政治学者/放送大学教授(中東研究、国際政治)。大阪外国語大学ペルシャ語科卒。米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。
 
 萱野稔人(かやの としひと)
 1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。博士(哲学)。哲学に軸足を置きながら現代社会の問題を幅広く論じる。現在、朝日新聞社「未来への発想委員会」委員、朝日新聞書評委員、衆議院選挙制度に関する調査会委員などを務める。『国家とはなにか』(以文社)、『ナショナリズムは悪なのか』(NHK出版新書)他著書多数。
 
 春香クリスティーン
 1992年スイス連邦チューリッヒ市生まれ。父は日本人、母はスイス人のハーフ。日本語、英語、ドイツ語、フランス語を操る。2008年に単身来日し、タレント活動を開始。日本政治に強い関心をもち、週に数回、永田町で国会論戦を見学することも。趣味は国会議員の追っかけ、国会議員カルタ制作。テレビ番組のコメンテーターなどを務めるほか、新聞、雑誌への寄稿も多数。著書に、『永田町大好き! 春香クリスティーンのおもしろい政治ジャパン』(マガジンハウス)がある。

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